【ゲーム】「PS2.5」ぐらいがちょうどよい?

プレイステーション3

 ソニー・コンピュータエンタテインメント(SCE)の新型ゲーム機「プレイステーション3(PS3)」
は典型的な「イノベーションのジレンマ」にはまってしまったのではないだろうか。これは
米ハーバード大のクレイトン・クリステンセンが唱えた経営理論で、企業をめぐる技術革新
(イノベーション)に対して、その企業が収益を最大化する最適な戦略を選択しているがために、
逆に失敗してしまうというものだ。

 ユーザーの性能ニーズは、時間が経過するに従って少しずつ高まり、よりレベルの高いものを
求めるようになる。しかし、そのユーザーニーズの性能アップへの要求よりも、企業内で進む
イノベーションの速度の方がはるかに速いこともある。そのため、ある特定技術の市場において、
企業は過剰なイノベーションをしてしまう。

 そして高機能で付加価値の高い製品へと市場を誘導することによって、企業として成長を
持続させようとする。最終的には、その時代のユーザーニーズからかけ離れたオーバースペック
の商品を作り上げてしまう。

 ところがユーザーがその市場で求めるニーズは、もっと低い技術レベルで十分な場合が往々に
してある。その合間に、既存の価値観と違う新しい市場が生まれる余地ができる。そして、
安価で新しい価値観を持ったユーザーニーズを満たす商品が登場することによって突然、大きく
市場を食われるという現象が起きる。

 もう詳しく説明はいらないだろう。PS3の抱えるスーパーコンピューター並みのセルチップや
フルスペックハイビジョン、ブルーレイ・ディスクが実現する高機能は、今の市場ニーズを
超えたオーバースペック商品である可能性がある。

 そして、低い技術ニーズを満たす商品として突然登場した例として、韓国発のオンライン
ゲームや任天堂の「ニンテンドーDS」「Wii」などがある。

 旧モデルとなった「プレイステーション2(PS2)」の売り上げが急速に縮小している日本と比較
して、米国や欧州の状況が大きく違っていることもそれを裏付けている。

 北米市場ではマイクロソフトの「Xbox360」が好調で新型ゲーム機市場を牽引しているが、実は
それ以上に売れているのが廉価版PS2だ。VG chartsの集計によると、北米市場の昨年12月の
売り上げは、Xbox360が120万台で、ニンテンドーDSが185万台とハード別では首位だが、PS2は
それに次ぐ166万台だった。

 エレクトロニックアーツ(EA)など欧米の大手パブリッシャーは、今後もPS2を含むマルチ
プラットフォームへの供給体制を堅持していく方針だ。人気タイトルの大半が新型機だけ
ではなく、PS2でも供給される。ユーザーが急いでハードを切り替える必要性がなく、PS2が
売れ続ける要因になっている。

 PS3が3月にローンチされる欧州は、もともとハード性能の向上ニーズがそれほど高くない。
欧州では、中古市場がほとんど存在しないため、ヒット商品が米国よりさらに長期にわたって
売れる傾向がある。一人当たりGDPが高くない国を多数抱えていることもあって、「まだPS2の
性能で十分」という雰囲気があるのだ。

 今春は、100万本ヒットが期待できるPS2向けの大型タイトル「ファイナルファンタジーXII」が
リリースされるほか、ロングランヒットが見込める大型タイトルが複数控えている。

 SCEの欧州法人であるSCEEは、PS3の欧州ローンチ時に販売するのは、搭載するハードディスク
が60ギガバイトのモデルのみとし、廉価版の20ギガバイトモデルをリリースしないことを発表
した。これはいわば、自らイノベーションのジレンマを認識して、PS2市場の急速なシュリンク
を避けようという意図もあるのではないかと推測できる。

 今のところ苦戦しているPS3だが、ブランディングで大きく失敗しているわけではない。
少々前の話だが、クリスマスシーズンに米大手メディアは、その年の新製品からベストの
クリスマスギフトを発表する。CBSとIT系情報ニュースサイトのCNETではデジタルカメラ
薄型液晶テレビを押さえてPS3が1位、続いてWiiが2位という結果だった。「プレイステーション」
のブランド力の強さを物語っていると言えよう。

 北米市場では薄型テレビが販売好調だ。日本に比べ家が広く、PS3が期待するような
ハイエンドのホームシアター環境を持っているユーザーも多い(前回のコラム「『PS3』の
パワーを堪能できる人、できない人」参照)。ブルーレイ・ディスクへの期待といったものも
反映されている。

 複数の海外の調査会社が、PS3がいずれはトップになると予想している。米Strategy
Analyticsが昨年11月に出したリポートでは2007年末、アイルランドのStrategic Foresight
Group(SFG)の先月のリポートによると2010年までに最終的にトップになっていると予想する。

 とはいうものの、このブランド力がいつまでも続くとは考えにくい。北米では今年、
コンシューマー機としては、Xbox360がトップに躍り出る可能性がある。他社ハードに
脅かされ、ブランド力が低下するのが早いのか、PS3がハードとして成熟するのが早いのか
という時間勝負であることは十分認識しているはずだ。

 今年の年末までには、PS3がイノベーションのジレンマを乗り越えられるかどうかが
はっきりしてくるだろう。世界のユーザーニーズがPS3の性能に追いついてくるのか、
もしくは喚起できるのか。個人的な意見としては「PS2.5」ぐらいが、ちょうど今の
市場ニーズに全世界的にかみ合っているのかもしれないとも思う。

▽News Source IT+PLUS 2007年02月09日11時41分
http://it.nikkei.co.jp/digital/news/index.aspx?n=MMITew000009022007